〜旅行的調査(!?)〜
台湾編・南部(2)
☆台湾南部2(パイワン)
台湾島の南部に居住するパイワンが利用するキダチトウガラシを、台東県太麻里郷(太麻里)、台東県金峰郷(嘉蘭村、正興村、新興村)、台東県達仁郷(台坂村、土坂村、新化村、安朔村)、屏東県春日郷(士文村、旧七佳村)、屏東県牡丹郷(牡丹村、旭海村、東源村)、屏東県獅子郷(内文村、草埔村、伊丹村、丹路村、楓林村)で調べてきました。地域によってキダチトウガラシの呼び名が違っていておもしろかったです。結構あちこちに行くことができて楽しかった。特に屏東県春日郷旧七佳村は、集落までの道が途中から舗装されておらず、集落に着くと石で作った家屋があり、タイムスリップしたような感じでした。 ・屏東県春日郷(パイワン(Paiwan))
「山にある山にある」と言われてもこの目で見ないと正確な情報ではないので、早速集落の上に位置する山(小高い丘?でも坂はかなり急)へ向かいました。汗をかきつつ林の周縁部に生えているかもしれないキダチトウガラシを探しました。はじめはなかなか見つかりませんでしたが、ふと見慣れた枝が草陰に見えます。立ち止まりゆっくりと観察してみると、やっぱりキダチトウガラシだ!あった!そこはほぼ垂直か?というような急な土手の上に生えていましたが、どうしても近くで見てみたいので、無理をしてなんとかよじ登りました。最近あまり雨が降っていないのか土は乾いており、キダチトウガラシも枯れかけていました。自生を確認できて興奮してきました。もっと上を見に行こう、と意気揚々と坂を登り、舗装されていない道を歩きます。50mくらいあがったところでまたキダチトウガラシの自生を発見。今度は赤い実が付いていました。また少し山を登ると、20mも歩かないうちにまたキダチトウガラシの自生を発見。やはりこの山にはキダチトウガラシの自生が多いようだ。もっと上までキダチトウガラシを探しに行きたかったのですが、これ以上ここで時間をかけてしまうと次の調査に影響を及ぼすのでやめました。山を下りタクシーへ乗り込むと、なぜか運転手がキダチトウガラシの一部を持っていました(赤い果実のついた枝の先っぽ)。ちょっと先へいった所にある家のおばさんからもらったのだそうだ。それならそこへ行こうとすると、そのおばさんは用事があってどっかへ行った、と運転手が言います。残念ですがあきらめて車を少し出すと、運転手がおもむろに車を止め、このおばちゃん、と言います。そのおばちゃんは女性同士で昼間からお酒を飲んでいました。またとないチャンスと思い、インタンビューをしました。みんなはビールを飲みながらゆでたエビをキダチトウガラシの調味料につけて食べていました。エビを勧められたが僕はアレルギーで食べれないと断り、その代わりにビールを頂きました。山道を歩いて汗をかいた後だったので、本当にビールがおいしく、ついつい何度もビールを飲み干してしまいました・・・。トウガラシ属の話を聞いていると、一人のおじいさんがその輪に加わってきたので日本語で話しかけてみると、驚くことに流暢に日本語を話しました。
次の目的地をタクシーの中で決め、その場所の付近で昼ごはんを食べました。お店で古い集落がまだあるかどうかを聞き、ある、とのことなのでそこへ向かいました。一時間くらいかかる、と言われましたが、地図を見てみるとどう考えてもそんなにかからないはず。適当なことをいう店員さんだ、と思いつつそこへ向かいました。途中で道が分かれていたりして迷いそうだったので人に行き方を聞きました。するとその人はここからまだ30分くらいかかる、といいます。もう着く頃だろうと思っていたので、非常に驚き、またでたらめか?どういうことだ?と道を進めました。すると徐々に道が狭くなり、ついには道が舗装されていない砂利道に!がたがたゆらゆら。時には転がっている石にタクシーの腹がガツンとこする。こちらとしては車は埃まみれになるし、車体は石にこするし、本当に運転手さんに申し訳なかったです。運転手も運転手で、途中から半ばやけくそ気味で車を運転していました。途中でタロイモを栽培している畑(ところどころピーナッツと混植)があり民家があったので寄ってみましたが不在。仕方なく進むともう一軒ありました。しかしそこも不在。ここが集落か?と思い、人がいないし引き返そうと思っているとバイクが一台通りかかりました。ビンロウを噛んだあとか口を真っ赤にしたお兄さんに集落について聞いてみると3〜4km先に集落があると言います。それなら行こう、ということで道をすすめるとやっぱりがたがた道。今までよりも一段とひどく、本当に集落まで無事に着けるだろうかという不安を感じるほどでした。ただ景色はよく、またこんな山奥にはどのような集落があるのだろうか、と内心わくわくしていました。まだか、まだか、といっているとやっとパッと視界が開けました。着いた!そこは何と石だけで作った家が大半をしめる集落旧七佳村(石板家部落、丁度いまから観光地化されようとしているところらしい)でした。まず酒を飲んでいる集団にトウガラシ属の情報を聞きました。小さな集落の中を歩いていると、家のホームガーデンにキダチトウガラシを発見。早速その家を訪れインタビューを開始しました。ここのお兄さんはかなりキダチトウガラシについて正確な情報を持っており、的確に様々なことを認識していました。いろいろな話を聞いた後、キダチトウガラシの観察をしました。そこにはキマメも一緒に植えられていました。その後、少し山を登り散策していると、あちこちにキダチトウガラシの自生を見かけます。林の周縁部、雑草が生えているところ、山道の道の中、様々なところにキダチトウガラシが自生していました。
・台東県太麻里郷、台東県金峰郷(パイワン・ルカイ)
次に、この村の中でもルカイが住んでいるところへ行きました。アバイ(アワモチ)を元気なおばあちゃん4人で作っていたので、見学させてもらいました。ゲットウの葉に何枚かルリホウヅキの葉をならべ、そこにアワを長方形に延ばし、豚肉を真ん中に一直線において、包む。ついでに、そこにいたルカイのおじいさんにキダチトウガラシについてインタビューしました。いろいろと話を聞いていると、アワモチをかまでゆではじめました。そのかまどのそばには小屋があり、そこには4種類のアワ(3つがモチ性、1つがウルチ性)と2種類のソルガムがありました。キダチトウガラシを見たいといったら、おじいさんが畑にあるから行くか?と聞くので、行く、と即答し見に行きました。そこには若い株がいくつかありましたが水ストレスにかかって萎れていました。最近雨が降っていなくて水がないようです。もう少し奥へ行くと、果実をつけているキダチトウガラシ(沖縄似)がありました。家へ帰るとアバイができており、おばちゃんたちが食べていました。そこで僕たちもアバイを頂き、昼食としました。出来立ては暖かくておいしい!!!みんな少しだけ日本語を話せます。みなさんの優しさを感じる、フィールドワークの至福の時でした。しばし堪能。いつの間にか一時半になっていたので、お別れを告げ、次の村である正興村へ向かいました。
正興村の中で車を走らせ、愛玉(Ficus awkeotsang、クワ科、ゼリーを作る)を加工している人の家でインタビューしました。早速パイワンのお兄さんにインタビューをします。次にそばにいたルカイのおじさんとタロコのおばあちゃんにもインタビュー。なんと日本語を結構理解し、話すことができました。次は新興村。結構近い場所にありました。町を歩き回ってもほとんど人がいません。たまたま玄関で酒を飲んでいる二人のパイワンの男性に話を聞きました。少し話をしていると、人が集まってきました。ここで宴会がはじまるらしい。そこでおいとまをしてまた歩く。商店の前でビールを飲んでいるグループに出会いました。のどが渇いたので、飲み物を飲みがてらキダチトウガラシの話をしてみると、店に蒸留酒に漬けたキダチトウガラシが置いてありました。そこでパイワンのおじさんにインタビュー。ビールを二本ほど飲ませていただきました(しかもただで)。なかなかおもしろいおじさんで、鼻の穴がめっちゃでかく、木梨憲武の仮面ノリダーそのものでした。
・台東県達仁郷(パイワン)
次は土坂村へ向かいました。すでに12時半だったので土坂についたらまず昼食を取りました。昼食後、調査を再開。ご飯屋の近くの商店でキダチトウガラシの瓶詰め(一本100元)を売っていたので、そこのおばあさんにインタビュー。その店で頭目を二人紹介されたが、行ってみると二人とも不在。というか人が本当に少ないかったです。暑い太陽が照りつける中、インタビューに適した人をさがします。すると村のはずれの畑にキダチトウガラシが植えられており、そこの家主が丁度昼寝から起きたところだったのでインタビューをしました。そこではキダチトウガラシを観察させてもらうと同時に、キダチトウガラシの冷製スープを飲ませてもらいました。水、キダチトウガラシをつぶしたもの、塩、味の素。辛かったが、暑くて疲れていた体がしゃきっとしました。昔農作業のときによく飲んだ、という話をこれまでに何回か聞いたことはありましたが、実物を見たことがなかったのでうれしかったです。その後、街中をぶらつくが本当に人がいません。少し坂を登ったところにおじいさんがいたのでインタビュー。少しするとその人より年寄り(お姉さんの旦那さん)が現れたのでインタビューしました。
時間が3時を超えたので、今日最後の調査村である新化へ向かいました。そこは第一部落と第二部落があったので、少し山側に入った第二部落から調査をしました。雨が降り始めます。おばさんがいたので雨宿がてらインタビューをしました。そこには黄緑色のキダチトウガラシが植えてあったので観察させていただきました。おばさんは山から採ってきたサルノコシカケのようなキノコを干していたらしく、雨が降ってきたので慌てて軒先に入れていました。お礼を言って、次の第一部落へ向かいました。そこではお年寄りのおじさん二人が話をしていたので早速インタビューしました。そうすると二人とも非常に日本語がうまかったです。インタビューがはかどる。おじさんのお姉さんが自分の息子(村長)の庭にキダチトウガラシがあるというのでそこへ向かいました。村長は木材を加工して原住民っぽい像や工芸品を作る人でした。結構すごい作品がいっぱいありました。
・屏東県牡丹郷(パイワン)
次は旭海村。まず下の部落へ行きました。海沿いです。気持ちがいい。ぶらぶらしているとキダチトウガラシがありました。緑と黄緑タイプの両方。もう少しぶらぶらすると居眠りをしかけているおばちゃんがいたのでインタビューをしましたもう少し海沿いに行くとお店でおばあちゃん二人がビンロウを作っていたのでインタビューさせてもらいました。その後少し山側へタクシーで登り、上部落を調査。歩いていると早速顔の濃い見るからにパイワンぽいおばさんがいたので、そのお母さんとともにインタビューしました。少し歩いてまた別のおばちゃんを発見したのでインタビュー。
次にタクシーで道を引き返し、東源村へ行きます。3時半を超えていたので足早に人を探しました。おばちゃん連中が集まっていたので早速インタビューをしました。その中の一人が今日収穫したキダチトウガラシの小さいのがあるといって持ってきてくれました。少し歩くとキダチトウガラシの畑があったので、収穫したオオタニワタリをまとめる作業をしている人たちに断りを入れて観察させてもらいました。もう少し歩いてみると、おじさんとおばさんが酒を飲んでいたのでインタビュー。そこでは米酒を飲んでおり、少しお付き合い。
今日最後の調査村である獅子郷内文へ向かいます。村へ入ると四〜五人が酒を飲んでいました。その内の一人の女性は村長の奥さんで、気分よく酔っておりよく笑っていました。笑い上戸かもしれない・・・。そのグループがいたそばに大型のキダチトウガラシがあったので観察。薄暗くなりかけた村を行くと、おばあさんがいたので話しかけると、なんと80歳。これはまたとないチャンスと思い、歩きながら話を聞き、おばあちゃんの家でインタビューをしました。また、おばあちゃんの隣の家の植え込みに小型のキダチトウガラシがあったので観察しました。今日行った集落は小型のキダチトウガラシが目立ちました。なんでだ?
・屏東県獅子郷(パイワン)
次の草埔へ向かいます。東へ進路をとり、川沿いをくねくねと峠をおります。村へ行くとやはり人が少ない。40代のおじさんがどこかへ出かけようとしていましたが、話しかけると快くインタビューに応じてくれました。近くでおじさんの親戚が朝からお酒を飲んでおり、ちょっかいをかけてきます。おじさんに年寄りはいないですか?と尋ねると向こうへ行ってみるといいというので向かいました。教えられた場所へ向かう途中、朝から商店でお酒を飲んでいるグループがいたのでに話しかけました。その家の植え込みに小型のキダチトウガラシがあったので観察させてもらいました。お酒を飲んでいたグループの一人のおばちゃんが自分のおかあさんがいるからインタビューをするといい、といって連れて行ってくれたが、おばあさんは寝たきりで体調が悪そうで、インタビューするのは難しいなと思っていると、だんなさんが教会から丁度帰ってきたのでおじいさんにインタビューしました。日本語が結構話せる。やはり75歳以上、とくに80歳近い人たちはかなり日本語が話せます。
次は伊丹。明らかによっぱらったおじさんとしらふのおばあさんがいたので、少し心配をしつつインタビューしました。おじさんはいろいろちゃちゃを入れようとしますが、酔っ払いすぎてあんまりインタビューに支障はありませんでした。そのあと、村を歩いてお年寄りを探すことにしました。そのときある家の敷地にキダチトウガラシの自生っぽいのがありました。家の人を訪ねてもいなかったので勝手に観察させていただきました。その後、村の奥へ行くとおばあさんがいたのでインタビュー。そのおばあさんは日本語はとても上手でした。「上手だったから、昔(日本統治時代)日本人に一度もたたかれなかった、一度もたたかれなかった」とジャスチャーつきで教えてくれました。複雑な気持ちだ・・・。日本人はよくなぐっていたということか・・・。ただおばあちゃんは日本人に会えたことがとてもうれしいようで、今夜は夢にあんたがでてくるよ、と言ってくれました。おばあちゃんの畑にはキダチトウガラシがありませんでしたが、隣の畑にあったので黄緑色のキダチトウガラシを観察。
次の丹路村では、お腹がすいたので昼飯にしようかと思ったのですが、ご飯を食べるところがなかったので、ご飯はあとにして調査をすることにしました。年寄りが見当たらないので、おじさんにインタビューしました。そのおじさんのおとうさんが90歳を越えているらしく、そこへ案内してもらいました。残念なことに耳が遠くてインタビューできませんでした。たぶん日本語ができるのでしょうがインタビューが無理なので、おじいさんの息子さんにお話を聞きました。さすがにおなかがすいてきたので、楓港までいってお昼ごはんを食べました。
今日最後の調査地である楓林(獅子)で調査を開始。一番奥までいってタクシーを降りるとおじさんとおばさんが何か作業をしていたので話を聞きました。畑にキダチトウガラシがあるというので見せてもらいました。山に自生しているものを引っこ抜いてきて植えたらしいです。おばさんに年寄りはいないか?と聞くと、子供が知り合いのところへ案内してくれました。74歳と72歳の姉妹がいたのでインタビュー。いままで気になっていたラポ(干したサトイモを粉々にしたものに、キダチトウガラシ、塩、水をいれた保存食)を実際に見ることができました。飲んでみるとゴマのような香ばしい香りが鼻に抜け、キダチトウガラシの辛さ、塩っ辛さが舌をしびれさせました。ゆっくりとお話を聞いた後、ぶらぶらと村を歩きます。すると商店のカウンターにおばあちゃんが座っていたのでインタビューをしました。そうしていると亡くなっただんなさんの弟がやってきたのでその人にもインタビュー。かなり暑く、あんまり外で歩き回りたくないなー、と正直だれていたので、いいところへやってきてくれたものです。インタビューした後、少し村を下るとかき氷屋さんがあり、店のおじいさんにインタビューをしました。既に五時をまわり、屏東へのバスの時刻が近づいていたので調査を終え、タクシーで楓港へ行き、タクシーの運転手とわかれ、バスを待ちました。海に近いため肌がべとべとします。屋台の焼き物のいい匂いが食欲をそそりお腹が鳴ります。5時40分の予定が6時過ぎにバスがきました。次の停留所では、草埔で朝お酒を飲んでいたおばさんが、かなり酒臭い状態で乗り込んできました。枋寮に家があるようです。左手に海を眺めつつ北上。オレンジ色の夕日が沈む。旅が終わった。感慨深い。心地よい疲れがどっとでる。いつもなら畑に何があるか、風景でおもしろいものはないか、と探し回りますが、頭がぼーっとして何も考えられません。ボーっ。ボーっ。コテ。いつの間にやらうつらうつらしていました。
☆南部に住む台湾原住民のトウガラシ属・ショウガ・山胡椒のまとめ
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