トウガラシ(Capsicum)属

☆はじめに
 トウガラシが日本に伝来してきたのは1600年頃とされています。刺激の強すぎるトウガラシは日本料理にあまり利用されてきませんでしたが,400年以上経った今,エスニックフードブーム激辛ブームダイエットブームなどにより,トウガラシが身近になりつつあります。ここではトウガラシ属(Capsicum 属)について少し触れてみたいと思います。
 Capsicum 属(トウガラシ属)は Solanaceae 科(ナス科)の多年生で潅木状になります。ただし,日本などの温帯地域では冬の寒さのため一年草となります。Capsicum 属には20〜27種あり,中南米,特にボリビア周辺が起源地であると考えられています(2n=24)。栽培種はC. annuum L.C. frutescens L.C. chinense Jacq.C. pubescens Ruiz & Pav.C. baccatum L. の5種があります。近年のCapsicum 属の分類についてはSee Prince et al. (1995) or Walsh and Hoot (2001)

1. C. annuum L. (和名:トウガラシ)
 C. annuum は世界でもっとも多く利用され,経済的に重要な種です。果実の大きさや形,色は多様で,温帯〜熱帯の広い地域で栽培されています。日本では鷹の爪,本鷹,八房などの辛味種や,獅子唐などの甘味種があります。ピーマン,ベルペッパー,パプリカ(ハンガリーのパプリカは有名です)なども全てC. annuum です。

・花色:白(稀に紫)
・花弁:スポットはなし
・花軸:1(とされているが,2-3つけるものもある)
・種色:クリーム色〜黄色

2. C. frutescens L. (和名:キダチトウガラシ)
 C. frutescens は世界の熱帯亜熱帯地域に分布しています。ピザを食べる時に使うタバスコソースの原材料である「タバスコ」が数少ないの経済品種の1つです。C. frutescens の詳細は次項のキダチトウガラシを参照してください。

・花色:黄緑
・花弁:スポットはなし(とされているが,スポットのある系統も存在(下の写真))
・花軸:2〜3
・種色:クリーム色〜黄色

3. C. chinense Jacq.
 C. chinense C. frutescens と非常に近縁な種で,現在では「C. frutescens - C. chinense complex」とまとめて考える研究者もいます(See Pickersgill (1966)Heiser (1976)Yamamoto (1978))。C. chinense の多くは果実が下垂し(→果実が鳥などから食べられにくい),萼と果実が離れにくく(→植物が栽培化されると非脱落性になりやすい。イネやコムギなどが顕著な例),柱頭も短い(→自家受粉がより高頻度で起きる),という性質を持っています。C. chinense の方がより栽培種(C. frutescens の方がより野性種)に近いといえるでしょう。原産はアマゾン流域の低地と考えられており,西インド諸島やメキシコ〜ボリビア,ブラジルなどで見られます。有名な品種は「ハバネーロ(Jabanero)」で,世界で最も辛いとされています。最近日本でも輸入雑貨店へ行けば入手できます(ハラペーニョ(Jalapeno)とお間違いなく。ハラペーニョはアメリカで一般的に食べられている品種で,C. annuum です)。

・花色:黄緑
・花弁:スポットはなし
・花軸:2〜5
・萼:萼と花軸の間に環状のへこみがある,萼が歯状
   (C. frutescens との違いに用いられるが
   
C. frutescens の中には中間的なものも存在し不明確)
・種色:クリーム色〜黄色


(写真提供:樋口浩和様,タンザニアで栽培されているC. chinense ( pilipili buzi と呼ばれる))

4. C. pubescens Ruiz & Pav.
 C. pubescens が他の栽培種4種と大きく違う点は,花が紫色で種が黒いところです。また種名の pubescens とは毛が生えているという意味で,茎や葉に毛が見られます。主にアンデス山脈,メキシコや中央アメリカの高地で栽培されています。アンデスでは「ロコト(rocoto)」と呼ばれています。C. pubescens の祖先種は未だ同定されていませんがC. eximiumC. cardenasii がそうではないかと考えられています。

・花色:紫
・花弁:スポットなし
・花軸:1
・種色:黒

5. C. baccatum L.
 C. baccatum にはC. baccatum var. baccatum (野生種)とC. baccatum var. pendulum (栽培種)があります。C. baccatum var. baccatum はアルゼンチン,ボリビア,パラグアイ,ペルーに見られ,C. baccatum var. pendulum は南アメリカの西側でよく見られます。他の栽培種4種と大きく違う点は,花に黄色いスポットが見られるところです(ただし,少なくともC. frutescens にもスポットを持つ系統が存在します)。アンデスでは「アヒ(aji)」と呼ばれています。C. baccatum の分類(taxonomy)については Eshbaugh (1970)Yamamoto (1978) を参考にしてください。

・花色:白
・花弁:黄色のスポットあり
・花軸:1(C. baccatum var. pendulum
     2〜(C. baccatum var. baccatum
・種色:クリーム色〜黄色



(Reference)
Andrews, J. (ed). 1995. Peppers - the domesticated Capsicums. New edition. University of Texas Press, Austin, Texas.
Eshbaugh, W. H.
1970. A biosystematic and evolutionary study of Capsicum baccatum (Solanaceae). Brittonia 22:31-43.
Heiser, C. B. JR. 1976. Peppers: Capsicum (Solaneceae). In Evolution of crop plants, edited by N. W. Simmonds, pp. 265-268. Longmans, London.
Pickersgill, B. 1966. The variability and relationships of Capsicum chinense Jacq. Ph. D. dissertation, Indiana University.

Prince, J. P., V. K. Lackney, C. Angeles, J. R. Blauth, and M. M. Kyle. 1995. A survey of DNA polymorphism within the genus Capsicum and the fingerprinting of pepper cultivars. Genome 38:224-231.
Walsh, B. M. and S. B. Hoot. 2001. Phylogenetic relationships of Capsicum (Solanaceae) using DNA sequences from two noncoding regions: The chloroplast atpB-rbcL spacer region and nuclear waxy introns. International Journal of Plant Sciences 162:1409-1418.
Yamamoto, N. 1978. The origin and domestication of Capsicum peppers. Ph. D. thesis, Kyoto University, Kyoto, Japan.



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