〜キダチトウガラシってなに?〜
キダチトウガラシ(C. frutescens
L.)
1. キダチトウガラシ(C. frutescens L.) キダチトウガラシ(C. frutescens L.)はアマゾン川流域の低地が原産とされ,熱帯〜亜熱帯地域(中南米はもちろん,東南アジアやインド,アフリカ,オセアニア,日本では南西諸島や小笠原諸島)に幅広く分布しています。キダチトウガラシは多年生の草本ですが,一年もすれば幹は木化し始め,数年経過すると半潅木状になります(1.5m以上)。種子の発芽には変温が必要で,恒温では発芽率が著しく低下する系統もあるようです(変温:18
hours at 30℃ and 6 hours at 20℃ → 発芽率90.3%,恒温:30℃
→ 発芽率21.9%。詳しくはSee
Hirose et
al. (1957))。キダチトウガラシは短日を好む傾向があり,一般的に晩生です。自家和合性をもち自家受粉しますが,蜜蜂などの昆虫により他家受粉も起こります(細かいデータは報告されていませんが,C. annuum であれば See Odland and Porter (1941) or Tanksley (1984))。もちろん花蜜もあります。一度舐めてみたところ,無臭でほとんど甘くなかった覚えがあります(トウガラシの蜜腺に関する報告は少ない,See Martin et al. (1932))。
キダチトウガラシの果実は小さく(大きくても5cm強),萼と果実が離れやすく,熟した果実の色は赤色であることが多いです。このような形質は鳥にとって魅力的であるといえます(鳥の種子散布は See 中西「種子は広がる」)。実際,鳥がキダチトウガラシをついばみ,種を運んでくれることがあります。より野生種に近いといえるでしょう。体験談としては,僕が大学のハウスでキダチトウガラシを栽培していた冬のある時期,鳥(ヒヨドリ?)がハウス内に入っていたらしく,果実の大きさを測定しようと思っていた系統を食べられてしまいました。ちなみに糞もハウス内にしてあり,種がしっかりと含まれていました。 |
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2. 分類が混乱していた 多くの植物と同様に学名は
Linnaeus によって名付けられました。二名法によってC. annuum (annuum
= a herbaceous annual)とC.
frutescens (frutescens = a shrubby
perennial)の2種としました。その後,様々な学名が無秩序に使われ,種の数が100を超えてしまい,Capsicum 属の分類は一時期混乱しました。そのような混乱の中,1898年
H. C. Irish はCapsicum 属を再編し,Linnaeus が採用したC. annuum とC. frutescens の2種のみであるとしました。それに対し,1923年
L. H. Bailey は,Capsicum 属の種がすべて多年生であることからC. frutescens の1種のみを採用しました。第二次世界大戦後,A. T. Erwin,P.
G. Smith,C. B. Heiser JR,W. H. Eshbaugh,B. Pickersgill らによって現在の分類に落ち着いていますが,C. frutescens とC. chinense を1つの種にまとめるべきかどうか,といった課題が残っています。 |
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3. 現地名のいろいろ キダチトウガラシが各地域でどのように呼ばれているかを下に示しました。僕の知る限りですのでかなり少ないです。間違い,あるいは他の地域の俗名を知っている方はぜひこちらまでお知らせ頂けると幸いです。
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(Reference) Andrews, J. (ed). 1995. Peppers - the domesticated Capsicums. New edition. University of Texas Press, Austin, Texas. Hirose, T., Ukita, S. and Takashima, S. 1957. Studies on related species in Capsicum. The Scientific reports of the Saikyo University. Agriculture 9: 13-22. Martin, J. N., Erwin, A. T. and Lounsberry, C. C. 1932. Nectaries of Capsicum. Iowa State College Journal of Science 6: 277-285. 中西弘樹 1994. 「種子は広がる 種子散布の生態学」 平凡社・自然叢書21 平凡社 東京 Odland, M. L. and Porter, A. M. 1941. A study of natural crossing in peppers (Capsicum frutescens). Proceedings of the American Society for Horticultural Science 38: 585-588. Tanksley, S. D. 1984. High rates of cross-pollination in chile pepper. Hortscience 19: 580-582. |